才能にあふれた小道具チームは「ハリー・ポッター」シリーズを通して数千本もの杖をつくり、持ち主の思考、個性や好み、興味に合わせて一本ずつカスタマイズしました。たとえば、スネイプ先生の杖はシンプルで飾りがほとんどありませんが、スラグホーン先生の杖はつくりが凝っていて、握りの部分はナメクジ(スラグ)の触角(ホーン)のようになっています。
魔法界の杖は、不死鳥の羽根、ドラゴンの琴線、ユニコーンの尻尾の毛など、様々な木材から作られているのではないか――そう考えた小道具チームはヒイラギ、ヒノキ、ブドウといったいくつもの天然木素材を使用し、撮影用の杖を制作しました。また、アクションシーンの撮影に備えて、ゴムや樹脂で出来た丈夫なバージョンが各杖に対して複数本制作されました。
シリーズ第4作に登場した炎のゴブレットは、記憶に残る小道具のひとつ。三大魔法学校対抗試合の出場選手が選ばれるシーンでは、このゴブレットがハリーを4人目の選手に指名しました。ゴブレットのデザインは変更と修正を重ねたすえにようやく決まり、撮影では2タイプのゴブレットが使われました。ひとつはカメラ映りの良いオリジナル版、もうひとつは特撮用の装置を仕込んだレプリカ版です。
オリジナル版は小道具チームを率いるピエール・ボハナが制作。1本の原木から節、ねじれ、裂け目のある部分を切り出して手彫りし、自然の風合いと年代感を出しました。そのあと、オリジナルのゴブレットを型どりしたレプリカ版が完成し、選手の名前が書かれた紙片を吐き出すシーンに使われました。
ダンブルドアの校長室に入ると、部屋の片隅に、小瓶の詰まった棚があります。900本近い小瓶にはそれぞれユニークな記憶のラベルが付いています。
よく見ると、“アーガス・フィルチ”や“マクゴナガル”といったおなじみの名前が交じっています。『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』ではダンブルドアが憂いの篩(うれいのふるい)を使い、小瓶の中の記憶を再現するシーンがありました。